2010年11月30日火曜日

オーストラリアのグライダー気象

E@98です。
なんとも迷惑な、ながーい投稿してしまいます。

ABAさんからリクエストがあった、オーストラリアの気象サイクルについての説明です。
原文はこちら:(原文ではPart1, Page75の最下段から)
http://2009.gfa.org.au/Docs/sport/coaching/Further%20&%20faster%20part%201.pdf

誤訳等のCheckをしてもらうためにも原文を一緒に載せるべきとは思いますが、
ますます長くなってしまうので、とりあえず訳文のみです。

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多くのグライダー飛行地域の気象サイクル

 オーストラリアにおけるほとんどのグライダー飛行は、南緯27°~37°の間(DalbyからBacchus Marsh)で行われている。この地域では、気象は亜熱帯性高気圧の影響を受けている。夏は熱帯の空気のために大気が不安定になり、南緯34°付近まで、主に東海岸地域(Sydney)において大型のサンダーストームが頻繁に発生するが、時として内陸部(West Wyalong)まで達することもある。
 ほとんどのクロスカントリーは、Queensland南西からVictoria、南オーストラリアのAdelaideにかけて弧を描く穀倉地帯に位置する、Great Dividing Rangeの内陸にあるクラブやセンターから飛行する。西オーストラリアにおけるグライダー飛行も、穀倉地帯において運航される。オーストラリア内陸部はいずれも、降水量が少ない。
 数多くのグライダークラブが沿岸地域にあるが、この地域からのクロスカントリーは空域、地形、森林および海風により制限されてしまう。これらのクラブのうち、良いクロスカントリーができる可能性があるのは数箇所のみである。
 オーストラリア南海岸の西および中央部は、地中海性の気候である。この地域では夏は長く、暑く、乾燥している。ほとんどの雨は、冬に降る。夏に降る少ない雨は、前線性のサンダーストームによる短く激しい降雨である。
 さらに東および北の地域では、前線が暖かい太平洋からの湿った南東風の影響を頻繁に受けながらDividing Rangeの西斜面を上がるため、夏にもっと雨が多い。
 支配的な高気圧は、季節により移動し、夏は南緯39°、冬は南緯33°付近を中心とする。夏の位置は、南洋からオーストラリアの南にかけての位置である。この地帯は冷たい海であるため、この海の上からの空気にはほとんど湿気がない。一般的に、降雨がもたらされるためには、中~高高度において熱帯の海からオーストラリア北西へ湿気が流入し、前線が発生しなければならない。

:高気圧の空気による乾燥のため、前線の近くを除いて一般的にはほとんど中層雲はない。夏を通して、雲の頻度は変化する。南部の地中海性気候地域においては、11月および12月の約60%の日は積雲が発生する。1月および2月には、約40%の日しか発生しない。さらに北側の地域では、内陸部まで達する南西風の影響により、夏の間中、約60%の日は雲が発生する。
 巻雲は時おり所々にまとまって発生し、対流に影響することがある。しかしながら、巻層雲や薄い高層雲を通り抜けてくる日射により、非常に乾燥した土地の上でソアリングに適した条件となることがある。
 まれに、オーストラリア北部の熱帯の雨に関連する雲が、1週間以上にわたり内陸部まで広がることがある。これは、10年に1回程度である。

 高気圧は、6日周期でオーストラリアの西のインド洋で発生し、東へ移動する。はるか南方、南緯60°付近の南洋では、低気圧が発生する。この低気圧は高気圧と相互に作用し、低気圧と高気圧の間に前線が形成される。この北側部分は通常、オーストラリア大陸まで伸びる寒冷前線である。グレート・オーストラリア湾の海岸線は、この前線を強める傾向がある。
 夏には、低気圧とそれに伴う前線は南方遠くまで移動し、前線の末端部分がオーストラリア南部の海岸線を横切るのみとなる。これらはきわめて弱い前線または前線の南への延長として現れ、気圧の谷となる。
 高気圧、前線および気圧の谷の区域にわたる規則的な動きにより、一定の風の動きのパターンが生ずる。前線の通過とともに風向は北西から南西へと変化する。前線の通過後の風向の変化は、次のようになる。
    南西から南
    南東
    南東から東
    東から北東
    北から北西

 変化が非常に弱く、風の変化およびサイクルの再開によってのみ、前線の通過を知ることができる場合も多い。
 温暖前線は南緯30°~40°の地域ではまれであるが、熱帯低気圧が通常より南方まで移動した場合や、南極の低気圧が通常より北へ移動した場合には発生しやすい。(1年に1回程度)
 グライダー飛行のためには、このサイクルパターンに関連した風向により気象を分析しても良い。

北西からの流れ:前線の前の風である。始めは15ktくらいで、次第に25ktくらいまで強くなる。西側の気圧の谷が深まる。新しい前線が接近するため、風向は北西から始まる。これは急速に起きることがあり、強風や突風によりほこりが巻き上げられて視界が悪くなることがある。空気の源流は大陸の内陸部であり、非常に暖かく乾燥している。北西からの流れにより、雲底12000fr以上となる大規模な対流が発生することがある。しかしながらサーマルの発生は遅く、巡回タスクの妨げとなるほど風が強くなることがある。前線近くでは雲のトップはかなりの高度まで達し、通り雨やサンダーストームをもたらす可能性がある。このような雲から非常に乾燥した空気中への降雨は、地表に達する前に蒸発することがある。このような日のソアリング・コンディションは、きわめて変わりやすい。サーマルが非常に強くなることもあるが、西から広がってくる中層の雲により、早いうちに対流がなくなってしまうこともある。
 このような日のタスクは、主に風の強さによって大きく変わる。300kmまでの高速でのタスクが適当である。あるいは、強い追い風を利用して長い直線タスクも可能であるが、当然ながら長距離の機体回収を行うことになる。前線の配置は通常、北西~南東であり、南方の目的地への飛行は前線性の気象により中断される可能性がある。

南―南西からの流れ:通常は20ktから、24時間以内、時として12時間以内に10ktまで減速する。前線通過直後に大規模な積雲が発生し、通り雨が降る可能性がある。ソアリングのための条件は、通常、前線通過後の日は非常に良い。高気圧前縁の下降気流のため、対流層は5000~8000ftまでに限られる。早朝は低い雲が広がることがあるが、正午までには途切れる。サーマルは逆転層により高度が限られるが、非常に強く、持続性がある。
 初期の強い南/南西からの風は、300kmより長いタスクには適さない。ストリートがはっきりと現れ、これを利用して風に乗ることができる。タスクがアサインされていなければ、これはすばらしい練習になる。南に向かうにつれ雲底は低くなり、その方角への飛行は約80kmに制限される。風に沿った300kmジグザグのタスクが、通常は可能である。

南東―東からの流れ:弱い風で、15ktを超えることはあまりない。前線通過後の2日目までに、新しい高気圧の中心がグレート・オーストラリア湾に発生し、気圧の尾根がBass海峡まで伸びる。このとき海からの空気は、熱せられた地面の上を数百kmも通過して飛行区域に到達する。この段階では前進する高気圧の沈下はまだ強く、5000~6000ftの逆転層がある。適度なサーマルがあり、クラウド・ストリートが現れることも多く、ソアリングの条件はたいてい良好である。早朝に広がる雲は急速に減って薄い積雲となり、午後には完全に消滅することが多い。この空気の流れは数日間続き、日ごとに東寄りに、弱い風となる。対流層は厚くなり、より強く、持続するようになる。
 このような日は、早い時間からほとんど日没まで飛行可能である。高度は限られるものの、日が長く、弱い風が続くため、1000kmのタスクが可能となる。

北東―北からの流れ:10kt程度の微風である。タスマン海上で強い気圧上昇が続けば、次第に北東から飛行地域に流れ込む空気が多くなる。この空気はもともと西太平洋の暖かい海上から来たものであり、数日かけて陸上を通過した結果、湿気を含みかなり熱くなっている。対流層はさらに厚く8000~10000ftまで広がり、サーマルは大きく強くなる。午後にはしばしば雲底の高い大きな積雲が現れ、散発的に夕方ににわか雨やサンダーストームが起きることがある。
 このような日は、ほとんどどのようなタスクにも最適である。しかしながら、サーマルの発生が遅く、非常に長いタスクは行えないこともある。発達しすぎた部分は一箇所にとどまるとは限らないが、このためにさらなる距離を稼ぐことができる。

前線通過と西からの流れ:前線の強さが大きく変化するが、過小評価するべきではない。気圧の谷と呼ばれる、北側の末端部のみが通過する、非常に穏やかな前線がいくつも存在している。これは通常、コンバージェンス・ラインを示す雲や、西北西から南西への風向の変化によって知ることができる。適切な予報と計画を行うことで、このラインを利用することができる。
 強い前線は、40~60ktの南西~西の風を伴う激しいスコールをもたらし、ほこりのために視界は非常に悪くなる。強い下降気流を伴うにわか雨やサンダーストームがある場合もあるが、雲底が低くなることはほとんどない。
 この通過には、20分~1時間かかる。時には前線が分裂し、2時間ごとの間隔で15分ほどで通過する、連続した小さな前線となる。前線の後は、数時間に渡って強風が吹く。(風向は南寄りから北へ変わる)雲はなく、明らかな風の変化を伴う前線もある。また、どちらかといえば温暖前線のように、雲がほとんどないか全くない状態で風が変わり、その数時間後に厚い中層雲の帯が発生し雨が降ることもある。
 前線通過直後の空気は非常に安定しており、サーマルができるようになるまでには数時間かかる。前線が夜間または早朝に通過した場合は、この影響はない。前線が日中の遅い時間に通過する場合は、前線を利用して目的地への最終滑空に十分な高度を得られることがよくある。重要なことは、状況を認識し最も適当な行動をとることである。
 飛行地域を前線が通過することになる日は、前線通過の時刻によりどのようなタスクが可能か決まるため、タスクの計画は難しい。前線の通過が午後2時以後の場合、前線は西側の稜線で一時停滞し、暗くなる少し前に通過する傾向がある。この場合は、かなり長いタスクが可能である。平地の上では、前線は一定の速度で移動する。

シーブリーズ:シーブリーズは、夏はほぼ毎日発生する。内陸の気温が30℃以上の場合、海からの空気が数百km内陸まで到達する。これは様々な形で現れ、気付かないこともしばしばある。海からの空気は冷たく安定しているため、その動向は地形によって左右される。常に、地表の勾配が最小の場所を移動する。
 地形と風の状況によっては、シーブリーズは小型の前線を形成する。この前線は白っぽいもや、時には2段階の雲底がある雲として、見えることがよくある。海からの風は通常は1500~4500ftの高度で、内陸へ移動するにつれて前進速度が増す傾向がある。それよりもずっと高くまで達していたサーマルはその発生源から切り離され、消滅する。
 海からの空気が狭い谷に沿って移動した場合、またはその移動が優勢な風の動きと近い場合には、それまで十分に発達していたサーマルが壊れていくことでわかる。
 海からの空気が到達する約1時間前に、午後遅くになって弱まっていたサーマルが再び強くなり始めることで、その接近を前もって知ることができる。慎重にタスクを選択すれば、この現象をうまく利用することができる。
 一度グライダーが海からの空気の中に入ったら、対流活動がある場所に再び到達することができない限り、最終滑空に入ることになる。時々、海の空気に覆われたターンポイントを往復しなければならないタスクがセットされることがある。海からの空気は前進を続け、グライダーで届く範囲には逃げ場がなくなってしまう可能性があるため、このような場合は特に注意しなければならない。
 気付かれないことが多いが海からの空気による影響として、その前線の動きに平行な穏やかな気圧の波が生じ、海からの空気が到達するよりもはるか内陸までクラウド・ストリートを発生させる。この現象は多くの地域でよく起きるもので、タスクを計画し達成するために有効に利用することができる。

3 件のコメント:

  1. Eさん、英語上手ですね。二箇所ほど意味の取りにくい部分があったので、参考までにちょっと考えてみました。よろしくご検討ください。
    1 北東-北からの流れ(最後の文): 発達しすぎた部分を迂回することはできるものの、余計な距離がかかる。
    2 前線通過と西からの流れ(二つ目の文): 前線の北端部のみが通過する際には、気圧の谷と呼ばれる穏やかな前線がいくつも存在する。

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  2. S@93です。
    77年入部Wさんから,別参考文献の抄訳文を頂きました。

    Spamフィルタにかかってしまうとのことですので,代理で投稿いたします。
    ありがとうございました。(どこかでフィルタのパラメータいじれるんでしょうか。。。)

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    別ソースで豪州のお天気に触れたものがあるので、ご参考までに抄訳してみました。FFFに較べて簡略な内容で素っ気ないのですが、個人的には原理原則に触れていて分かりやすいと感じた側面もあります。

    Bernard Eckey "Advanced Soaring Made Easy" 2nd Edition

    2.12 豪州の気象パターン (p.74)

    飛行当日の気象条件の予想だけでなく、なぜそうなるのかにも関心があるのなら、2-3日前から長期予報に配慮する必要がある。幸いにして最近は信頼に足る4日間予報など情報が豊富になってきた。
    当然のことながら、こういった情報を活用するには高気圧や低気圧まわりの大気の流れについて、正しい解釈が必要になる。オーストラリアの気象の特徴は、高気圧が優勢でかなり規則正しく変化する点にある。夏は高気圧が大陸南方沖を通り過ぎ、冬は大陸中央を通過する。

    2.12.1 冬の気象パターン

    オーストラリアの気象パターンを理解したいなら、4日間予報がいい手がかりになる。通常の気圧の谷や寒冷前線が次々と大陸南側を横切って、大気塊を入れ替えていくのが分かる。まとまった雨が降るのは強力な寒冷前線に限られるが、弱い前線の末端が通過しただけでも湿度が高くて不安定な大気が南部沿岸地域へ吹き込むことには注目してほしい。これはグライダーパイロットにとってはいい話で、湿気を含んで陸に向う風は雲底4-5千フィートの積雲を形成することになる。大気が不安定なおかげで、数度気温が上昇しただけでサーマルが活動を開始する。密なサーマル分布と穏やかな風は、ストリートを活用した飛行向きの条件だ。とはいっても対流の発生している時間が短いので、フライトの距離は概ね300kmどまり、500kmもたまにはある。

    2.12.2 夏の気象パターン

    これに対して、典型的な夏の気象パターンは7日間サイクルで繰り返す。高気圧(大概は大陸の南側を通過する)帯は、前線で区切られることがよく起きて、その場合には南極の冷たい空気が大陸南部に侵入してくる。この「Cool Change」が暖かく安定した大気を洗い流して、新しいサイクルの始まりを告げることになる。対流は前線通過直後だと5千フィート程度に限られるが、新しい大気塊は湿気を多く含むので積雲発達の可能性が上がる。

    数日先の天気予報に際して留意すべき事項を挙げると、次の通り。
    a) 赤道の南側では、高気圧を巡る風は反時計回りに吹く。
    b) 地面付近の風向は、多かれ少なかれ等圧線に沿う。
    c) 高気圧は東に向って一日に平均500km進む。

    この三つの原則が頭に入っていれば、高気圧が移動するに連れて、なぜ正確に風向を予測できるのかが理解しやすくなる。前線通過直後は強い南西の風が優勢なものの、半日以内程度で南の風に変わる。東風成分が含まれ始めると、風は弱くなって急速に日中最高気温が上昇してくる。風はやがて東に変わり、さらに1日か2日で北東から北となる。南部に到達する北風は内陸の高温地帯を長距離渡ってくるので、南部諸州の高い気温の原因となる。

    大陸南部で最高の飛行条件が整うのは、通常、新しい寒冷前線が通過するちょうど一日前だ。北ないし北西の気流に伴う高い気温と、弱くなる沈下逆転層の効果(訳注: 正直、ここの diminishing effects of subsidence inversions って内容理解できていません)によって、大気は相当な高度まで不安定となる。

    グライダーパイロットは、このように天気図が長距離フライトの成功に欠かせない手がかりを与えてくれることを充分留意すべきだ。もちろん、上記の説明は大陸南部に関する一般論にしか過ぎない。気象予報は、現地気象条件の詳細情報と照らし合わせれば精度をあげられる。特に地形の変化に応じて、気象の特徴も大きく変化する。典型的な例としては、山脈に囲まれた地域や、海風(sea breeze)の影響を受ける沿岸部がある。

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  3. 匿名希望さん、どうもありがとうございます。
    自分でもどう訳したら良いものか悩んだところだったのですが、
    なるほど、そのように訳したほうがすっきりしますね。

    Wさんも、抄訳ありがとうございます。
    こちらの資料も参考になりそうですね。

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